夫と死別または離婚して子どもがいる場合、一定の要件に当てはまれば所得税・住民税の計算上「寡婦控除」といって最大35万円の所得控除を受けることができます。しかし、これはあくまでも「婚姻歴」があることが条件であり、婚姻歴のない「未婚の母」は適用を受けることができない制度でした。しかし令和2年からは婚姻歴の有無を問わずシングルマザーであれば「ひとり親控除」という新しい制度による所得控除を受けられるようになります。
令和2年からシングルマザーの税金はこう変わる!「ひとり親控除」の創設
2020年6月4日
寡婦控除とはどういう制度?
「寡婦(かふ)控除」って聞きなれない言葉ですよね。
「寡婦控除」とは、夫と離婚、死別して一定の要件に当てはまる場合に、所得から27万円を差し引くことができる制度です。
「寡婦控除」を受けられる人に子どもがいる場合には、控除額が35万円になります。
ただし、寡婦控除はあくまで「婚姻歴」があることが要件であり、婚姻歴はないが子どもがいる、いわゆる「未婚の母」は対象外という不公平な制度でした。
しかし令和2年より新たに「ひとり親控除」という制度が設けられ、シングルマザーとして子育てをしている人であれば、婚姻歴の有無を問わずに控除を受けることができるようになりました。
※ 当記事ではシングルマザーを念頭に執筆しておりますが、シングルファーザーもシングルマザー同様に「ひとり親控除」の適用を受けることができます。
ひとり親控除を受けることができる要件は?
ひとり親控除とは、所得税の計算上シングルマザーの所得から35万円(住民税の計算上は30万円)を差し引くことができる制度です。
ひとり親控除を受けることができる要件は次のとおりです。
① 未婚であること(死別、離婚、婚姻歴なしを問わない)。
② 所得金額48万円以下の同一生計の子どもがいること。
③ シングルマザー本人の所得金額が500万円以下であること。
④ 住民票に事実婚である旨(妻(未届))の記載をされた者がいないこと。
所得金額とは、給与所得であれば給与収入から給与所得控除を引いた残りの金額になります。給与の年収ベースにすると所得金額48万円は「年収103万円」、所得金額500万円は「年収678万円」になります。
子どもがアルバイトをしていて年収103万円を超えてしまうと、ひとり親控除35万円と扶養控除38万円(子どもの年齢19歳~23歳未満は63万円)のどちらも受けられなくなるので注意が必要です。
同一生計とは、要するに「生活のおサイフが一緒」ということです。したがって、一緒に住んでいなくても生活費や学費を送っている子どもがいればOKです。
ひとり親控除は、所得税は令和2年分、住民税は令和3年分から受けることができます。
ひとり親控除を受けるとどのくらい税金が減るの?
ひとり親控除を受けるとどのくらい税金が減るのでしょうか?
所得控除を受けると、「所得控除額×税率」の税金が減ります。
例えば、
・シングルマザーで年収300万円、給与所得のみ
・子どもは18歳で1人、所得なし
・社会保険料は42万円
・所得控除は社会保険料控除、ひとり親控除、扶養控除、基礎控除(誰でも一律48万円(住民税は43万円)引くことができる控除)を適用
であれば所得税の税率は5%、住民税は所得にかかわらず一律10%になります。
ひとり親控除の適用がない場合と適用がある場合の税金を比べてみましょう。
【ひとり親控除の適用がない場合の税金】
●所得税
300万円(給与収入)-98万円(給与所得控除)-42万円(社会保険料控除)-38万円(扶養控除)-48万円(基礎控除)=74万円(税率をかける前の所得)
所得税は74万円×5%=37,000円
●住民税
300万円(給与収入)-98万円(給与所得控除)-42万円(社会保険料控除)-33万円(扶養控除)-43万円(基礎控除)=84万円(税率をかける前の所得)
住民税は84万円×10%=84,000円
税金の合計は、37,000円+84,000円=121,000円
【ひとり親控除の適用がある場合の税金】
●所得税
税率をかける前の所得:74万円-35万円(ひとり親控除)=39万円
所得税は39万円×5%=19,500円
●住民税
税率をかける前の所得:84万円-30万円(ひとり親控除)=54万円
住民税は54万円×10%=54,000円
税金の合計は、19,500円+54,000円=73,500円
ひとり親控除の適用がない場合の税金と比べて、121,000円-73,500円=47,500円の税金が安くなります。
ひとり親控除を受けるための手続きは?
ひとり親控除は年末調整で受けることができる
ひとり親控除は年末調整で受けることができます。
ひとり親控除を受けるにあたり、執筆時点ではフォーマットは発表されていませんが、恐らく毎年年末調整の際会社から渡される「給与所得者の扶養控除等申告書」に「ひとり親」のチェック欄が新たに加わり、そこにチェックを入れるだけで適用を受けることができると考えられます。
確定申告でひとり親控除を受けるときは
確定申告でひとり親控除を受ける場合、所得控除の欄に金額を記入します。
執筆時点では令和2年の確定申告書のフォーマットはまだ発表されていませんが、恐らく新たに次の項目が加わると考えられます。
① 第1表に「ひとり親控除」の欄が加わり、そこに35万円と記入。
② 第2表に「ひとり親」のチェック欄が加わり、チェックを入れる。
まとめ
婚姻歴のあるないにかかわらず、シングルマザーがこどもを育てていく大変さに変わりがありませんが、これまでは「婚姻歴がない」というだけで所得控除を受けられない理不尽な制度でした。
「ひとり親控除」の創設は、税制がやっと時代の流れに追いついてきたと言えます。該当する人は今年から忘れずに適用を受けるようにしましょう。
※本ページに記載されている情報は2020年5月12日時点のものです。